強さの相対値
名人強くなってません?
棋聖戦も王将戦も藤井竜王にスイープされてしまって、38歳の誕生日には「キャリアの終焉が…」とか言ってるし、渡辺名人は大丈夫なんだろうかと思わせておいて、名人戦でのここまでの戦い振りは一体どうなっているのか、むしろ安定感が増して強くなっているようにすら思えます。
棋聖戦の挑戦者トーナメントも明日に迫り、棋聖戦5番勝負は三年連続の藤井竜王ー渡辺名人でまた名勝負を量産してくれるのでしょうか?
藤井竜王に連勝されるのは当たり前?
2021年BTモデルで今回も勝敗確率を予測してみます。
2021年のプロ棋戦のデータを解析した(1) - たなかし@観る将×データ解析練習場
藤井竜王と渡辺名人が7番勝負した場合のスコア確率(左:藤井竜王、右:渡辺名人)
- 4-0:26.4%
- 4-1:29.9%
- 4-2:21.2%
- 4-3:12.0%
- 3-4:4.7%
- 2-4:3.3%
- 1-4:1.8%
- 0-4:0.6%
7番勝負をスイープする確率(26.4%)が渡辺名人が7番勝負を制する確率(10.4%)よりはるかに高いみたいです。いやぁこれはちょっと…
藤井竜王と渡辺名人が5番勝負した場合のスコア確率(左:藤井竜王、右:渡辺名人)
- 3-0:36.8%
- 3-1:31.3%
- 3-2:17.7%
- 2-3:7.0%
- 1-3:4.9%
- 0-3:2.3%
5番勝負の場合は、スコア3-0の確率が一番高いんですか…。それでも渡辺名人が5番勝負を制する確率は14.2%あるので、7番勝負よりは確率が上がるんです。
世間では渡辺名人があまりに藤井竜王に負けるので相性の問題と捉えている方も多いのかもしれませんが、2021年BTモデルから予想される勝敗確率からすると、相性というほど極端な事が起こっている感じではないのです。今のところは。
ただ皆さんの感覚値としては、棋聖戦のような一日制五番勝負は、もうちょっと拮抗するのではないかというところもあるでしょう。それはきっと持ち時間によるところだと思いますので、持ち時間の概念をBTモデルに入れられるように頑張りますね。
(そう簡単ではないのです。また追って記事にします。)
取りこぼしがない=強さが他を圧倒している
とにかく藤井竜王が強すぎるんです。
よく藤井竜王は取りこぼしが少ないことが強さの秘訣、なんて言われ方をしますが、それは強さの秘訣ではなく強さそのものです。負ける確率がとても低いのでほとんど負けない、ということです。
2021年度に藤井竜王が負けた対局は次の通りです。()内は2021年BTモデルの順位です。
- 深浦九段(45位)王座戦挑決トーナメント
- 稲葉八段(30位)順位戦
- 豊島九段(4位)王位戦第一局
- 豊島九段(4位)叡王戦第二局
- 豊島九段(4位)叡王戦第四局
- 渡辺名人(2位)銀河戦決勝トーナメント
- 齋藤八段(5位)棋王戦挑決トーナメント
- 深浦九段(45位)NHK杯
- 豊島九段(4位)JT杯
- 永瀬王座(3位)王将戦挑決リーグ
- 千田七段(38位)順位戦
- 永瀬王座(3位)朝日杯
渡辺名人は以下の通りです。
- 齋藤八段(5位)名人戦第一局
- 石井六段(46位)王座戦挑決トーナメント
- 齋藤八段(5位)叡王戦挑決トーナメント
- 藤井竜王(1位)棋聖戦第一局
- 藤井竜王(1位)棋聖戦第二局
- 藤井竜王(1位)棋聖戦第三局
- 千葉七段(61位)王位戦予選
- 郷田九段(32位)NHK杯
- 豊島九段(4位)JT杯
- 菅井八段(24位)銀河戦決勝トーナメント
- 三浦九段(39位)叡王戦予選
- 藤井竜王(1位)王将戦第一局
- 菅井八段(24位)朝日杯
- 藤井竜王(1位)王将戦第二局
- 藤井竜王(1位)王将戦第三局
- 八代七段(7位)竜王戦ランキング戦
- 藤井竜王(1位)王将戦第四局
- 永瀬王座(3位)棋王戦第三局
渡辺名人の負け対局リストが1位の人のせいで見づらいのですが、このリストだけ見るとあまり差がないように見えます。ただ、2021年度の対局スコアを見ると、違いが大きくわかります。
- 藤井竜王 52勝12敗(タイトル戦21局)
- 渡辺名人 21勝18敗(タイトル戦16局)
いよいよ藤井竜王のシーズン入り
王将戦終了から順位戦最終局の1局のみを挟み、2ヵ月半ほどのオフシーズン明けで、いよいよ藤井竜王が2022年度のシーズン入りを叡王戦5番勝負から迎えます。
昨年は特に忙しかった夏から秋にかけて少し星を落としていた傾向が見られました。今年は叡王戦が春に移動し、竜王・王将タイトル保持者になったので、夏から秋にかけての対局過多は多少緩和され、昨年度より一層安定感を増す(=強くなっている)ことが期待されます。タイトル戦も多く予定されており、また順位戦はA級ということで、とても楽しみですね。
叡王戦の挑戦者は出口六段。世間的には「勢いのある若手」評価ですが、2021年BTモデルは6位であり、タイトル戦に相応しい挑戦者です。
叡王戦はチェスクロック4時間で一番持ち時間が短いタイトル戦です。スコア予想をしてもよいですが、今のBTモデルは持ち時間の短さを考慮できませんので、際どい勝負が多くなることが期待できます!