たなかし@観る将×データ解析練習場

入院時の暇を利用して王位戦(木村王位×藤井棋聖)を観戦した2日間以来の観る将。データ解析の練習もかねて棋士の強さ解析を実施しながら、マニアックな角度からの観る将ライフを紹介。

鬼の棲み処最終局(1)

期待以上の熱戦

藤井竜王が楽勝に終わることはないだろうと思っていたが、午前中からこんなに盛り上がるとは思わなかった。仕事に集中できないじゃないか。

予感は当たった。

 

藤井竜王の長考と局面複雑化

藤井竜王の1時間以上の長考は2場面。

  1. 26手目 △3五同歩(94分)
  2. 56手目 △6二玉(84分)

いずれもその後の一連の流れの中で、いわゆる評価値を下げる手を指している。解説の棋士にも意外に思われる手であったようだ。自然な手を積み重ねない選択をしたということは、劣勢を跳ね返すために局面を複雑化させる手を選択したということであり、そのための長考であったと推測できる。

1回目の長考時点では見事に佐々木勇気七段の研究が炸裂した形だ。局面を見る限りはそれほど意外な形でもなかったし、モバイル中継でも割と最近の前例が指摘されていた。ABEMAでも飯塚先生の解説を聞く限り、少し工夫が入った速攻の仕掛けだったようで、佐々木勇気七段がこの前例を研究で掘り下げて、この一局にぶつけたようだった。

ただ実際、1回目の長考により研究の本筋を外れたせいか、佐々木勇気七段がその後選択した手で評価値は少し後手側に戻された。

  1. 41手目 ▲3四角(20分)

2回目の長考の後、藤井竜王はほとんど時間を使っていない。それは佐々木勇気七段が「勝ちになった」と思っていた勝負手が繰り出された時もだ。72手目の9分は、実質的には76手目以降のことを描いていた時間であったはずで、佐々木勇気七段は76手目を指された時点で66分長考し、「気がついたら負けになっていた」ということなのでしょうか。

 2. 71手目 ▲3二銀成(2分)

  72手目 △3二同飛(9分)

  (中略)

  76手目 △8二飛(0分)

 

センス・才能・努力

珍しく藤井竜王も「逆転勝ち」と表現する一局で、観る将に対するエンタメ性の高い名局だったなと思った。

佐々木勇気七段といえば、天才肌。その才能については永瀬王座が散々口にしている。それに対して藤井竜王については、これまた永瀬王座は才能と努力の両方が突き抜けていると。

今年の順位戦、序盤戦から飛ばしまくった佐々木勇気七段評は、かなり大きくよい方に変化していたように感じた。序盤研究にかなり力を入れていることが感じられ、かなり努力をしていることが伺われた。そしてその意識の中には、明らかに藤井竜王があった。将棋ファンがそれを感じたのは、おそらくABEMAトーナメント決勝戦だろう。

 

順位戦最終局、佐々木勇気七段は▲3二銀成というセンスが凝縮された一撃を繰り出した。その発想はやはりプロ棋士の度胆を抜いたようだが、山本四段の指摘の通り、評価値が悪く視聴者には?な手となってしまった。

 

この二人だからこそ実現するドラマ

藤井竜王は9分の考慮で正しく攻略しているのだが、これは9分で正答に到達できたのか、それともその前からわかっていた罠だったのか…藤井竜王ファンとしてはむしろそこが気になる。

56手目の△6二玉は、評価値的には△6三玉を下回るものだった。ABEMAで解説していた高見先生も自然なのは△6三玉としていただけに、藤井竜王は自然な手を選択しなかったことになるが、それはなぜだったのか。

佐々木勇気七段が▲3二銀成を放った場面、藤井竜王は「さあここが難しいでしょう。どうですか?」と手渡しした場面だったのかもしれない。

ただ佐々木勇気七段の天才たるゆえんは、そこで二分で▲3二銀成を指してしまうところなのかもしれない。見えちゃったのだろう。その後藤井竜王は9分使っているので想定していた手ではきっとなかったのだろうが、逆に9分で攻略法が見つけられてしまっていることを考えると・・・でもそこが天才佐々木勇気の魅力なんですよね。

感想戦では、2分で指したことは後悔されていました。(5時間10分くらいからその局面)

youtu.be

 

いやぁ、また順位戦で見たいカードだな。将来A級で実現するのかな(お相手が名人防衛モードに入っていなければ・・・)。